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「まわりから批判をうけないようなら、それはやる価値がないってことじゃないか」

コスタリカのコーヒー農園に行ったとき、わたしは、はじめて目にする農法に出会いました。それは、「ハニー製法」というものです。

コーヒーの生豆は、赤いコーヒーの実から取り出されます。取り出された生豆の表面には、“ぬめり”が付着しています。この“ぬめり”を、ミューシレージと呼びます。

生豆に付着したミューシレージをとりのぞき、乾燥させた生豆にまで処理することを、「精製」といいます。この精製処理が、丁寧かつ、すみやかに行われていることで、その生豆の味は研ぎ澄まされ、結果、品質は高まります。

しかし、現地に行って自分自身の目で見ると、生産国で作り出されるコーヒー豆の多くが、あまり満足のいく状態で精製処理されていないことがわかります。いろいろな理由があるのですが、まず精製処理をおこなう設備に、莫大なコストがかかることがあります。

コストがかかるため、コーヒー農園で精製処理の設備をもっているところは少数です。ですから、精製は外部の精製処理工場に委託することになります。外部に依頼をかけるわけですから、作り手側が望むような、高いレベルの精製処理がなされないこともあります。

精製設備。自分の精製設備をもっている農園は、めずらしい。ほとんどが外部の精製工場に委託している。

今回視察したブルマス・デル・スルキー農園は、自分で精製設備を有している、数少ない農園のひとつでした。精製設備まで持とうとするのは、農園オーナーが高いレベルのコーヒーを作り出したいと考えているからに、ほかなりません。

そんなブルマス・デル・スルキー農園内を視察したとき、ミューシレージが残ったまま、生豆を天日で乾燥していました。「ハニー製法」でコーヒー豆を作っていたのです。

この景色を見て、わたしは正直驚きました。わたしがいままで学んできた知識では、コーヒー豆のミューシレージはできるだけ、すみやかに除去することが重要と教えられてきたからです。ミューシレージが残ったまま乾燥させると、コーヒー豆にダメージを与えるからです。

そうしたことは重々分かっているなか、ブルマス・デル・スルキー農園では、あえて、新しい農法である「ハニー製法」に挑戦していたのでした。ミューシレージを残し乾燥させることで、コーヒーの味に、ほのかな甘味が加わり、はちみつのような香りをもつコーヒー豆が生まれるというのです。

たしかに、「ハニー製法」によって作られた生豆の表面は、はちみつでコーティングされているようになっていて、通常にはない甘い香りを発していました。

コーヒー豆を天日で乾燥させていく。どれくらいの日数、乾燥させるかで、その品質が変化する。

「周りから批判は出ないか?」
わたしは農園オーナーである、ファン・ラモン氏に聞きました。従来の「当たり前」ではない農法でコーヒー豆を作ることで、周りから批判や反発を受けることを、よく目にしていたからです。

ファン・ラモン氏はこう答えました。
「批判が出るのは当然さ。新しいことをやるときに、まわりから批判をうけないようなら、それはやる価値がないってことじゃないか。ぼくはまわりの人に納得してもらいたくて、コーヒー豆を作っているんじゃないからね。どこよりも品質の高いコーヒーを自分たちが作りたいから、コーヒー農園を運営しているんだ」。

雨が降りそうな場合は、コーヒー豆をビニールシートで覆う。豆が完成するまでには、自然との格闘があり、多くの手間がともなう。

いままでにない新しいことをしようとすれば、たくさんの困難がともなうもの。実際、この「ハニー製法」によるコーヒー作りは、管理において、ことさら手間がかかるものになっていました。

どれくらいのミューシレージを残し、どの程度の日数、天日で乾燥させることがベストなのか。そうした前例がないため、生豆をこまかく区分けしながら、手探りで膨大な時間をかけて、データを集め、実験を繰り返していました。

新しい農法に挑戦する彼らの姿は、コーヒーを作ることにおける「姿勢」について、わたしに教えてくれているようでもありました。





おまけ

次の農園オーナー、ファン・ラモン ジュニア。日本につれて帰ろうと言って抱き上げたら、この後、大号泣されました。