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コーヒーの美味しさを考えた時、“焙煎の鮮度”という条件は、欠かすことができません。

コーヒーは焙煎してから長時間経過したとしても、飲めなくなる訳ではありません。ただ、どうしても、当初の時と比べて香りや風味は弱まります。

では、焙煎釜から出た直後の味わいが、最も美味しく感じるのかというと、そうではありません。焙煎したてのコーヒーの味わいは、“幼すぎる”からです。生豆の匂いが強く残っていますし、味にとがりがあり、落ち着きがありません。

焙煎前の生豆と焙煎した後の豆では、別物と言えるほど、その性質は変化します。加熱されることで、生豆の中のさまざまな成分が化学反応を起こし、コーヒーの香りや味を表現する成分に生まれ変わります。
そしてこれら成分は、焙煎してからおよそ4日から7日の間に、その量は最大になります。ですから、数値だけで言うと、焙煎してから4日から7日の間、その銘柄の力が、もっとも強く表現されていると言えます。

そこから、時間が経過していくことで、これらの成分は徐々に減少していくことになります。コーヒーの風味は、焙煎されてからまるで人間のように幼少期から成長期に向けて成長していき、徐々に衰えていくというわけです。

こうしたことから若いころのわたしは、焙煎してから4日から7日の間の、“成長期”の時期の味わいに重点をおいて、味作りをしていました。

しかし、今はこの考えに少し変化がおきています。焙煎してから10日から30日程経過した、人で言うところの“熟年期”の味わいに、“成長期”のそれとは異なる価値を見出せるようになったからです。

そう考えるようになった理由は、味や香りを表現する成分の量が多ければ、その味わいをもっとも「美味しい」と感じるというほど、人間の嗜好は単純ではないという答えにいきついたからです。

例えば、香りの種類において、「ジャコウネコの香り」というものがあります。これなどは、一定数値以下までは良い香りと感じられるものの、その数値が一定数値以上超えれば、不快と感じてしまうものです。

焙煎してから10日から30日期間ほど時間が経過することで、確かに味や香りを表現する成分の数値は減少します。しかし、そのことが味の“とがり”を抜けさせ、落ち着きと調和を生み出すとも言えます。つまり、この時期のコーヒーは、人で言うところの“熟成期”を迎えたとも言える。ですから、「この時期のコーヒーが、最も美味しく感じる」と言う方もいるわけです。

ですから、コーヒーの味を考える時、“成長期”の味わいだけではなく、“熟年期”の味わいも意識して考えられるようになりました。これは、自分自身が年齢を重ねたうえで、価値観が変化してきたことが、やはり大きいと思います。

振り返って考えると、若い頃は焙煎を考えると言っても、短時間で結果がでることばかりに意識が向いていましたから。しかし、今は、焙煎の技術にしても、いかに時間をかけることができるかということを考えるようになったのですから、変われば変わるものです。
コーヒーの銘柄だけではなく、焙煎する人間の、こうした価値観の変化も、作り出す味わいに、少なからず影響していると、わたしは思います。