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早朝の、音のない珈琲工房。

わたしの一日は、焙煎釜のスイッチを入れることから、はじまります。
モーターが、いきおいよく回り出し、それをきっかけに、
工房の中は、いくつかの音が生まれます。

最初に聞こえてくるのは、今日、焙煎する生豆を用意する音です。それに、釜に火をともす音、
朝出勤してくるスタッフたちの、元気なあいさつの声の音であったりもします。

それらの音を聞きながら、わたしは、父、土居博司が残してくれた『技術書』を開きます。
膨大なページ数になる父の手書きの書をめくりながら、「釜の温度は何度に設定するか」、
「どれほどの時間、豆に火をとおすか」、「どのような焙煎度合いに仕上げるか」、
これらのことを考えます。それは、わたしにとって、亡き「父」との会話です。

釜が暖まってくると、工房には、最初と異なる音が生まれてきます。

焙煎釜に投入した生豆同士がぶつかる衝撃音。
300度近くまで火力を上げることによって生まれるバーナーの轟音。
その高温に生豆がたえかねて、“バチバチ”と鳴る破裂音。

それらの音に耳を傾けながら、長い年月を通して、多くの部品が彼の手形に変形した、
「父」そのものとも言える焙煎釜に手をそえます。

焙煎技術に、ことさらこだわっていた父は、みけんにしわを寄せながら、
いつも工房の中で生まれる音に、耳をすましていました。
「美しい音があふれる工房においてこそ、澄みきった味わいのコーヒーは作られる」、
そう考えていたからです。

工房で生まれるすべての音は、父が長い時間をかけて作り出した、
土居珈琲にしか存在しないものです。
焙煎釜、技術書、整理整頓された道具の数々。父は、たくさんのものを残してくれました。

その残してくれたもののなかで、わたしがもっとも守りつづけたいのは、
コーヒーにおける父の信念です。

わたしをはじめスタッフ一同、土居博司が持っていた信念を胸に刻みながら、
これからもお客さまの期待を超えるコーヒーを作りつづけます。

土居珈琲 焙煎士

土居 陽介