早朝の、音のない珈琲工房。
わたしの一日は焙煎釜のスイッチをいれることから、はじまります。
それをきっかけにモーターがいきおいよく回り出し、
工房の中はいろいろな音に包まれていきます。
わたしにとって、いつもの工房の風景です。
この工房の風景に、大切なものがひとつ欠けることになりました。
父、土居博司が、この夏、静かに息を引き取りました。
しかし、わたしは今も、父とともに仕事をしています。
彼が使っていた焙煎釜。長い年月を通して、多くの部品が彼の手形に変形しているそれは、
わたしにとって、「父」そのものです。
そして、工房の机の上には、一冊の『技術書』が置かれています。
これは父が生前書きためていたものです。そのページ数は、膨大な量になります。
焙煎の技術論から心の持ちよう、釜の手入れ方法やその重要性など、
書かれている内容は多岐にわたります。
最後のページは筆圧が弱まり、字も大きく乱れたものとなっていますが、
この『技術書』は、まさに父の魂です。
土居博司が残した『焙煎釜』と『技術書』。このふたつをもって、
土居珈琲はこれからもみなさまに、よりご満足いただけるコーヒーを
お届けさせていただきます。
眉間にしわを寄せながら、厳しい表情で工房に立つ土居博司は、
この場所に、今もたしかに存在しています。
これからも土居珈琲を、ご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。
株式会社 土居珈琲