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「木に学べ」/西岡常一 著

今日は、どうしてもご紹介したい本があります。

それは、西岡常一氏の著作「木に学べ」です。
わたしは、この書に出会って仕事が変わりました。

じつはこの書に出会う20年以上前、わたしは、「どういうコーヒーをつくるべきか」ということを悩んでいました。しかし、本書が、わたしをこの悩みから解放してくれたのです。

当時、わたしは、多くの人に土居珈琲を知ってもらうために、流行に合わせたコーヒーをつくるべきではないだろうかと考えていました。

一般の方はあまりご存じないと思いますが、コーヒーはその時々の流行があります。そうした流行のひとつに、フレーバーコーヒーというものがありました。ですから、わたしたちも、こうしたフレーバーコーヒーをつくったほうが良いのではないか。そう父に言ったのです。

当時、父親は、このわたしの考えに大反対しました。ただ、当時のわたしは、できるだけはやい答えを求めていたので、父とは大きくぶつかりました。

そんなときにわたしが手にしたのが、本書です。西岡氏は法隆寺専属の宮大工です。彼は築き上げた技術をもって、法隆寺や薬師寺など多くの古代寺院の再建に尽力しています。
本書の中で、西岡氏は飛鳥時代に建てられた法隆寺と、鎌倉時代に建てられた日光東照宮を比較して、このように言います。

「日光は芸者さんです。あんなんは建築やあらしまへん」。

それは言い過ぎではないかとわたしは思いましたが、西岡氏は、法隆寺は建物としての本質を問いつめて建てられているが、室町時代以降の建築物は、“見た目”という流行を優先してつくられている。それは工芸品にすぎないと言い切ります。

この西岡氏の考えを知って、わたしは当時の流行に合わせたコーヒーをつくることをやめました。自分のなかに、それをつくる必然性があるならまだしも、単に流行だから、それをつくると言うのは違うと思ったのです。

わたしが父とともにつくりたいコーヒーは、本質を問う、ひとつひとつが「作品」と呼べるもの。ならば、安易なコーヒーをつくることはやめようと考えたことが、今日に至っています。

西岡常一氏の著作「木に学べ」は、わたしに、「自分たちはどういうコーヒーをつくるべきか」を見つめるきっかけを与えてくれた、珠玉の一冊なのです。