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「焙煎釜は使う人間が大切にあつかえばあつかうほど、そのことに応えてくれる」

以前、シアトルに行った時のこと。その地にあるコーヒー会社の焙煎工場を見学する機会を得ました。何といっても、アメリカはコーヒーの本場です。ですから、本場のコーヒー焙煎の現場を見学できることに、当初大きな期待をもちました。

しかし、自分が期待していたような“なにか”を見ることはできませんでした。アメリカのコーヒー焙煎の現場は、私が考えていたものとは異なっていたからです。

彼らと話をしていてわかったのは、“コーヒー”に強い関心があるということでした。逆に言うと、焙煎釜をはじめとした“道具”には、あまり興味をもっているようには見えませんでした。たとえば、焙煎釜も「壊れれば、別のものに入れ替えればいい」、という感覚でした。ですから、焙煎釜から異音を発している工場も、よく目にしました。

焙煎釜の異音とは、古くなって手入れをしていない自転車から出るそれといえば、わかりやすいのではないでしょうか。“キィーキィー”や“ガチャガチャ”といった部品と部品がこすれ、ぶつかり合う音です。

焙煎釜はモーターからチェーンベルトへ動力が伝わり、中のドラムを回す構造になっています。車や自転車と、変わりません。ですから、焙煎釜も使用を繰り返して行くなかで油をさすといったことや消耗部品の交換をしなければ、異音を発するようになります。特にチェーンのゆるみ具合の調整は重要で、強すぎても弱すぎてもいけません。

この焙煎釜から異音が発するようになると、焙煎する人間にとって、大きな問題が生じます。コーヒーの焙煎度合いは色だけではなく、豆から発するかすかな音によっても判断しているからです。

焙煎中の豆からは、ハゼ音という音が発せられます。焙煎釜から異音が発することで、かすかなハゼ音を聞き取れなくなるのです。こうしたことを避けるために、わたしたちの工房内の焙煎釜は、いつも油をさしたり、チェーンの緩みを調整したりといったメンテナンスを繰り返しています。

土居博司は、「焙煎釜は使う人間が大切にあつかえばあつかうほど、そのことに応えてくれる」と言っていましたが、まさにそのとおりだと思います。

焙煎をはじめた当初、思い通りにコーヒー豆を焙煎できると、とてもうれしい。ほめてもらおうと出来上がったコーヒー豆を土居博司に見せたところ、こう言われました。「思い通りの焙煎度合いに仕上がった結果よりも、それまでの前段階の過程を大切にしろ」。

当時は、素直に褒めればいいのにと思っていましたが、きっと焙煎釜におけるメンテナンスをはじめとする、扱い方の大切さをといていたのだということが、年を重ねてわかるようになりました。

コーヒーをうまく焙煎できるかどうかは、焙煎する前の段階で、すでに決まっているのかもしれません。