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旅の中のコーヒー(モンゴル編)

大自然の中でたてたコーヒーを楽しみたい。ふと、そう思いました。
今、コーヒーの世界では、エスプレッソコーヒーを、多く目にするようになりました。専用のマシンを使用して、コーヒーの成分を蒸気圧で抽出し、スチームしたミルクを加えた、あのコーヒーです。

これは、家庭用のエスプレッソマシンが数多く普及したことも、理由のひとつでしょう。エスプレッソマシンと言えば、かつては、とても高価なものでしたが、最近は、とても安くなりました。

最近のエスプレッソマシンを見たとき、わたしはたいへん驚きました。エスプレッソコーヒーをたてるとき、コーヒーの表面にクレマ(泡)をうまくはってたてるには、ある程度の技術を必要とするのですが、こうした技術を磨くことなく、コーヒーをセットすれば、指一本で、だれでもカンタンにエスプレッソコーヒーをたてることができるのですから。

本当に私たちの身の回りにあるものは、昔と比べて、驚くほどに便利になっていると感じます。

これに反して、大自然の中で、自分自身の手で手間をかけてたてるという、コーヒーの楽しみ方もあります。雄大な大自然の中でたてたコーヒーを、どうしても味わいたくて、今回の旅の目的地を、モンゴルにしました。

モンゴルはウランバートル空港に着いてから、車で約2時間かけて、“ゲル”のある場所へと向かいます。“ゲル”とは、遊牧を常とするモンゴルの人たちが生み出した、中を羊毛でおおったモンゴル式テントです。昼は、40度近くあっても、夜になればあっというまに、0度近くまで気温が下がります。モンゴルの環境は、きびしい。この中で、たきで火をともせば、外気温がどれだけ下がっても、ゲルの中は快適な温度が保たれます。


モンゴルの景色は、はるかかなたまで続く草原と山のみです。人工の建物は、一切目にすることはありません。モンゴルに着いてまず驚いたのは、モンゴルに住む人たちの顔立ちです。その顔立ちは、日本人のそれと同じで、異国の人であることを感じることはありませんでした。

ただ、自分自身と大きくちがいを感じたのは、彼らの“たくましさ”です。あたりまえのように、馬にまたがり、さっそうと駆けていく彼らを見ていると、この国が戦士の国と言われている理由が、はっきりとわかりました。


コーヒーをたてるために、お湯をわかす間、モンゴルの若者と相撲をとることになりました。同じくらいの体つきの若者と組み付いたとたん、わたしはあっというまに、空高く持ち上げられ、地面に強く叩きつけられました。


その技は、スポーツのそれではなく、日々大自然を生活する戦士が、敵を倒すためのものでした。日常の中の、便利に慣れきってしまった軟弱なわたしなど、大自然を生き抜く彼らにとって、ひまつぶしの相手にもならなかったことでしょう。


投げ飛ばされたことで、なさけないことに口の中を切ってしまいました。戦い終わって、一休みしながら飲むコーヒーは、鉄の味と、男としてのくやしさを思い出させてくれるものでした。