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お客さまから、「土居珈琲に行ってコーヒーを飲むことはできないのか?」とご質問をいただくことがあります。

申し訳ありません。土居珈琲には、喫茶部門がありません。
珈琲工房において、コーヒー焙煎に特化しているからです。

喫茶部門についてお話すると、実は、土居珈琲は過去、喫茶部門をつくり、そして閉鎖したという経験があります。

「おまえは、亡くなったらすぐに、おれの失敗談を話するのか?!」と、父がわたしの枕元にたって怒鳴ってきそうですが、その声は無視して話を続けます。

コーヒー製造会社をやっていると、喫茶部門をもちたくなります。自分が作ったコーヒーを、その喫茶部門でお客さまに提供するというわけです。ですから、父 土居博司も、若かりし頃、自分の喫茶店を開店したいという“夢”をもち、実現させたことがありました。

しかし、その喫茶部門は残念ながら、うまくいきませんでした。

自分がやってあらためてわかることですが、喫茶部門は、大きな”壁”に直面します。それは地代や人件費、その他の固定費が想像以上にかかるということです。固定費がかかると、どうしてもコーヒーのコストを下げるという考えが出てくる。自分が考える最高のコーヒーを作り、それを飲む方にお出ししたいと考えて喫茶部門を開設したのに、コーヒーのコストを下げるのでは本末転倒である。しかし、自分には、その”壁”を乗り越える才覚はない。そう判断して喫茶部門は閉鎖したというわけです。

父は、昔わたしにこう語ったことがありました。「喫茶部門を作ることは、若かった頃、おれの“夢”と思っていた。けど、今振り返ってみると、あれは、みんなと同じことをしている方が安心という、自分の弱い気持ちの裏返しやった。やってわかったけど喫茶部門は、ほんとうのおれの“夢”じゃなかったな」。

また、こうも言いました。
「妥協した豆使って『まぁ、ええか』と思いながら、店を続けられるほど器用でもあらへんしな。おれは自分が良いと考えるコーヒーを、“作る”ことにこだわりたい」。

そう決断した父は、コーヒーの焙煎、製造に特化する、今の珈琲工房の形をとるという答えに行きつきました。

そんな父の考えを具現化した、珈琲工房に昔、まだ小かった孫が遊びに来たことがありました。

「おじいちゃんのコーヒー、焙煎してくれるか」。
そんなことを言いながら、にこやかな笑顔を浮かべ、孫にコーヒー焙煎を教えている姿を見て、わたしは、「あなたに、そんなにこやかな顔をしながら、コーヒー焙煎を教えられる回路があったんですね?!」と驚いたことがありました。

なにせ、生前、わたしをはじめ、他のスタッフにコーヒー焙煎を教えるときは、強烈な厳しさをもってやっていましたから。(いや、65才くらいまでは、ほんとうに凄かったんですよ)

そんな父が、孫にひとしきり焙煎を教えた後、ふと、こんな話をわたしにしました。

「いつか、お客さまご自身が飲むコーヒーを、ここで焙煎していただくようなことはでけへんかなぁ…」

この父の“夢”は、どこかで実現させたいと思っています。