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一日に作るコーヒーの量には、制限をかけています。

近年、“スペシャリティコーヒー”という言葉が、聞かれるようになりました。
しかし、この“スペシャリティコーヒー”は、はっきりとした定義や統一した規格がありません。言ってみれば、生産する農園が、「これはスペシャリティコーヒーだ」と言えば、スペシャリティコーヒーとして通用してしまいます。

こうした背景があるので、土居珈琲として、スペシャリティコーヒーというからには、何らかの基準がいるだろうと、考えていました。
わたしたちが定義する“スペシャリティコーヒー”とは、できるだけ人間の手作業がかけられて作られたコーヒーとしています。そうしたコーヒーは、大量生産ができないからです。こうした考えにいきついた理由は、いままでに数多くのコーヒー農園を、自分の目で見てきた経験からです。

たとえばスペシャリティコーヒーと呼ばれているコーヒーのひとつに、変化球的銘柄ですが、インドネシア産のあるコーヒーがあります。このコーヒーは、世界で最も高価なコーヒーとして知られており、100グラムにつき500ドル以上の価格で販売されています。(ですから、100gで五万円以上です)

このコーヒーが高額である理由は、生産量がごく少数であるからです。通常コーヒーの実は、人間が収穫します。しかし、このコーヒーは、ジャコウネコによって収穫されたものです。そのコーヒーは、コーヒーの実を食したジャコウネコの排泄物から取り出されたものというわけです。

虫が喰っているりんごは蜜の量が多いのと同じように、野生動物であるジャコウネコは、たしかに数あるコーヒーの実の中でも、より完熟したコーヒーの実を選別して食します。ですから、人間が選別するより、完熟したコーヒーの実のなかにある生豆であるということが言えるでしょう。ただし、わたしはこのコーヒーを紹介されても、買い付けようとは思いませんでした。野生動物から排出されたコーヒーを、自分のお客さまに提供する考えが、わたしにはなかったからです。

ただ、最初にこのコーヒー作った人は、「品質の高いコーヒーを作るには、どうしたらいいのか」ということをいろいろ考えたんだろうなとは、思いました。
そんなことがありながら、最近インドネシアに行ったときのこと。ある農園を訪問したとき、ケージのなかに閉じ込められたジャコウネコの姿を見ました。「これは、なにをしているの?」と農園スタッフに聞くと、「農園で飼っているジャコウネコにコーヒーの実を食べさせて、そこから排出されたコーヒーを取り出している」というのです。

彼らが言うには、「野生のジャコウネコから取り出したコーヒーは天然物であり、飼っているジャコウネコから取り出したコーヒーは、養殖物だ」と言うわけです。
コーヒーに、養殖という言葉が使われるとは、わたしは夢にも思っていなかったので、この話を聞いたとき、ちょっと感心してしまいました。

これはひとつの笑い話のようですが、わたしがインドネシアで見たこれらのコーヒーのように、“スペシャリティコーヒー”と称されるコーヒーは、最初は「どこよりもいいものを作ろう」という作り手の思いから作られます。しかし、そのコーヒーが売れてブランド化すると、最初にあった前提から外れて、同じものを、効率よくできるだけ多く作ろう、というものに変わっていくことは、よくあります。

買い付けていたコーヒーが、年を重ねて購入し続けるうちに、どんどん品質が落ちていくことは、それほどめずらしいことではありません。

これは、生産国だけの事情ではなく、わたしたち焙煎しているものにも言えることです。時間が経過することで、最初にもっていた前提からズレていくのです。こうなる理由のひとつは、たくさん作ろうと考えることだと、わたしは思います。 品質を高いレベルで維持しつづけることは、品質をあげることと同様にむずかしいことであると珈琲工房の現場にいると痛感します。

このことを避けるため、故 土居博司がわたしたちに残した遺言のひとつに、土居珈琲では大量生産をしないことというものがあります。

こうしたことから、土居珈琲では一日にお受けする注文数に制限をかけています。ですので、ご注文をいただいたとき、お届け日で長くお待たせして、ご迷惑をおかけすることがあります。

しかし、このことを変えることはありません。土居博司が目指した「極上のコーヒー」を作り続けることを、変わらぬ前提として持ち続けたいからです。