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焙煎は深煎りがいいのか、浅煎りがいいのか。

先日、お客さまより、このようなご質問をいただきました。
「届いたコーヒー豆が、濡れているように見えるのは、どうしてですか?」。

これは、豆の内部にあった油脂分が、豆の表面ににじみ出ているためです。

コーヒーの生豆は、内部に植物性の油脂分を含んでいます。これをフレンチローストやイタリアンローストといった深煎りで仕上げると、その油脂分は、表面に浮き出やすくなります。とくに気温が下がる冬場は、この傾向が高くなります。

豆の表面に油脂分がにじみ出ることが、コーヒーの味に、何か影響を与えるということはありません。

ただ、この焙煎度合いには、“流行り”があります。

喫茶店ブームがあった1970年代は、浅煎りのコーヒーが“流行り”でした。ただこの“流行り”は、豆の表面に油が浮いていると、焙煎の鮮度が古いコーヒーだと誤解されたためです。そうした誤解を避けるため、コーヒーは浅煎りで仕上げたほうが良いと言われました。

それから時代は進み、エスプレッソコーヒーが流行し、深煎りが“流行り”となりました。ですから、表面が濡れたように見えるコーヒー豆を、よく目にするようになったものです。

そして現在、その反動から浅煎りのコーヒーが、“流行り”になっています。

コーヒーを作っているものからすると、正直言って、焙煎度合いも、こうした“流行り”に合わせて仕上げたほうが、飲む方にはわかりやすいという側面があります。ただ、土居珈琲では“流行り”で、焙煎度合いを決めていません。

銘柄は、それぞれ持ち味が異なるからです。

深煎りで仕上げたほうが、その持ち味がいきる銘柄もあれば、浅煎りで仕上げたほうが、その持ち味がいきる銘柄もあります。

また、同じ農園の銘柄であっても、収穫された年度や、ロットによって持ち味が変わります。
どの銘柄でも浅煎りから深煎りまで幅広く仕上げられるわけでもありませんし、前と同じように仕上げればいいというわけでもありません。

その銘柄の持ち味をいかすために必要なことは、“流行り”で焙煎度合いを決めるのではなく、目の前にある生豆の状態をよく「観る」ことです。豆のふくらみや含水量の違いによって、焙煎が進むスピードも変わるからです。

「その銘柄の持ち味が、もっともいきる焙煎度合いで仕上げる」。

これこそが、土居珈琲焙煎士 土居博司が、追い求め続けた土居珈琲の焙煎における考え方です。