土居:コーヒー農園の運営で大切にしていることは何ですか?
フクダ氏:日本企業がモノづくりにおいて昔から大切にしていた5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の考えを、コーヒー農園の運営にいかすことです。多くの人が働くコーヒー農園において、この考えを「当たり前」として徹底させることは、とても大切なことです。
土居:そこで働く人たちのもつ「当たり前」を統一させることは、わたしたちもとても大切だと考えています。当社の珈琲工房でも、たとえば「あいさつ」を重視しています。「当たり前」が守られていないところでは、焙煎技術は育たないという考えからです。
フクダ氏:そのとおりです。わたしたちの農園では、管理が行き届いていることを「当たり前」としたい。ただ、南米の人たちにこうしたルールを守らせるということは、とても難しい。
ただ、コーヒーの樹は肥料を与えるにしても、タイミングと与える量を間違えれば、だいなしになります。品質の高い銘柄を作るのに画期的な方法はありません。目の前にあるひとつひとつの作業を、決められたルールのもと、丁寧に行っていくという「当たり前」を積み重ねていくということにつきます。
土居:今までコーヒー農園を運営してきたなかで、失敗談があれば教えてください。
フクダ氏:当初、コーヒーづくりに対する考え方を、はき違えていたことです。農園をはじめた頃、わたしはとにかく自分の力を見せつけたかった。どのコーヒー農園よりも品質の高いコーヒーを育ててやる。自分にはその力がある。そう考えて、コーヒー農園を運営していました。
土居:どういうことでしょうか?
フクダ氏:コーヒーを飲む人は、わたしの身勝手な腕自慢を見せつけられたいわけではありません。美味しいコーヒーが飲みたいのです。しかし、当時のわたしは、飲む人に美味しいと感じてもらいたいという考えでコーヒーを作っていたのではありません。どうすれば他の人間が作るコーヒーと違う味のコーヒーがつくれるのか。このことばかりを考えて、コーヒーの樹を育てていました。
土居:それは、自分がしたいことではなかった?
フクダ氏:わたしがほんとうにしたかったことは、自分が美味しいと感じるコーヒーをつくることだったのです。そこに気付いてから、どうすれば美味しいコーヒーをつくり出せるのかを真剣に考えました。わたしがいきついた答えは、美味しいコーヒーは「自然の力」がつくるということです。「自然の力」をいかしてコーヒーの樹を育てていこう。そう考えるようになったのです。
土居:「自然の力」をいかすとは、具体的にどういうことなのでしょうか?
フクダ氏:バウ農園が位置するセラード地区は、非常に雨が少ない地域です。ですから、当初わたしはコーヒーの樹に過剰に水を与えていました。しかし、品質の高いコーヒーの実をつくるためには、コーヒーの樹を良くしなければならない。コーヒーの樹を良くするためには、樹の「根」から良くしていかなければならない。根を良くするために、あえて樹に水を少量しか与えないようにしたのです。
土居:樹が本来もつ力をいかすようにしたわけですね。
フクダ氏:そのとおりです。その結果、樹の根は水分を求めて、土中深く伸びていきました。その根は地中の栄養分を、より多く吸収しました。その豊富な栄養分によって、品質の高い芳醇なコーヒーの実をつけるようになったのです。
自分が作ったコーヒー豆が、お客さまからどのような感想をもらっているのかを、土居陽介に聞くフクダ氏(土居珈琲 珈琲工房にて)
土居:考え方が変わってから、コーヒー農園での生活に変化はあったのでしょうか?
フクダ氏:昔は、あれが欲しい、これが欲しいということばかりでした。しかし、今は朝起きると、今日も太陽が昇っている。耳をすませば野鳥の声が聞こえてくる。そうした身の回りにあるひとつひとつの自然に感謝しながら、仕事ができるようになりました。それが、コーヒー農園でコーヒーの樹を育てている最大の喜びです。
土居:今、一番心配していることはなんでしょう?
フクダ氏:わたしが一番心配していることは息子のことです。彼は冒険心が豊富で、いろんなことに挑戦していくのです。先日も一人でセスナに乗って、ブラジルのはるか遠い場所まで飛んでいってしまいました。妻も心配するので、わたしが少しストップをかけています。しかし、彼のそうした挑戦心も、ブラジルの大自然が作り出したものなのかもしれません。
フクダ氏が運営するブラジル バウ農園
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