「どのくらいで、焙煎できるようになりますか?」
入社を希望する方から、よく聞かれる質問です。
答えに、とても困ります。
たしかに焙煎に、“コツ”のようなものはあります。
ただ、若いスタッフに、それを教えることはありません。
どんなに重要なことであっても、人から教えられたものは、聞いた本人が大切にできないからです。
たとえば、焙煎における最初の壁は、「色」のちがいを把握することです。
その変化は微妙なものですから、かんたんにつかむことはできません。
工房の若いスタッフが、なかなか思い通りにいかず、豆を見ながら七転八倒しています。
その様子を見ていると、「こうしたらいいよ」と、つい口をはさみたくなります。
正直なところ、仕事ですから「はやくできるようになってほしい」と考えることもありますから。
でも、じっと我慢をしています。
どれだけ時間がかかるとしても、目の前にある問題の解は、自分自身で悩み見つけてほしい。
そうやって見つけたものは、どんなにささいなことでも、自分にとっては「宝物」だからです。
「これくらいしたら焙煎できるよ」なんて言葉を気軽に言いたくはありません。
時間がかかったとしても、深く深く悩んでほしいと願っています。