近年になってコーヒーづくりの現場では、新しい取り組みが生まれています。
「嫌気性発酵」は、そのひとつです。
コーヒーの生豆は、手元に届くまで、いくつもの処理がなされていきます。
まず、摘み取られたコーヒーの実の果肉が、取り除かれていきます。中にあった生豆は、発酵槽にいれられます。生豆の表面に残る“ミューシレージ”と呼ばれる粘着物質を分解させるためです。
この過程がていねいにおこなわれないと、好ましくない味が生じるようになります。
近年になって豆を入れた槽を密閉し、二酸化炭素を充満させて発酵させるという、新しい手法が生まれました。これはワイン製造で行われている「嫌気性発酵」を応用して考えられたものです。
この手法でつくられたコーヒーが手元に届いて焙煎したとき、おどろきました。いままでにない果実香を感じさせる独特の香りを表現していたからです。
いままでの自分の経験を振り返っても、かなりめずらしい種類のものでした。調べると、いままでにない香りゆえ、専門家の間でも評価は大きくわかれていました。
よくこの手法に挑んだものだと考え、生産者に聞いてみたところ、やろうと選択したとき、内部からの反対意見も多かったようです。「失敗したらどうしよう」という考えが浮かんだともいいます。いままでどおりのことを繰り返していれば、そのまま売れるのに、あえて新しい方法に挑んで、失敗したら大損ですから。
多くのリスクをふまえたうえで、新しい農法に挑戦できたのは、彼らのなかに、「自分たちしかできないコーヒーをつくりたい」という強い情念があったからにほかなりません。
このコーヒーの味わいを、お客さまにはお楽しみいただきたいと考え、3月の『土居博司セレクション』で買い付けました。どのような評価をいただけるか。楽しみにしています。